CARS Report

LOTUS 97T/1 Story - Part 1 -

2021.03.08
PLANEX CARSが所有する1985年シーズン用のF1マシン、ロータス97T/1。そのヒストリーを2回に渡り紐解いていきたいと思います。


2019年のこと。1枚のポスターが一部で話題になりました。
それはブラジルGP1週間前の11月9日にアイルトン・セナの没後25年を記念して行われた『ハイネケンF1フェスティバル – セナ・トリビュート2019』です。これはサンパウロの市街地を舞台に、現役のF1マシンのほか、セナにゆかりのあるトールマンTG184とロータス97Tがデモランを行うというイベントだったのですが、そのオフィシャル・ポスターの絵柄にマニアの注目が集まったのです。
黄色とグリーンのブラジル国旗とセナのヘルメットをモチーフにしたグラフィックの上に配置されているのは、真上から撮影されたセナとロータス97Tの姿。画像加工でJohn Player Specialのロゴは消されているのですが、なんとそのゼッケンナンバーがセナの定番である12番ではなく、チームメイトのエリオ・デ・アンジェリスの11番になっていたからです。
これを見て「合成では?」とか「初歩的な間違いでは?」と疑問の声が上がったのですが、しばらくしてこのイベントの告知を行うF1の公式Twitterに、その元となった写真が添付されていたことで、その写真が合成ではなく、当時ブラジルのジャカレパグア・サーキットで撮影された本物であることが証明されました。
これがその写真です。ではなぜセナはゼッケン11のロータス97Tをドライブしていたのでしょうか?
その謎を解く鍵が、PLANEX CARSのアーカイブにありました。
ロードカー、レースカーに限らず、貴重なヒストリック・モデルの場合、クルマだけではなく、その個体にまつわる様々な書類、資料も一緒に付属する形で取引されることは珍しくはありません。もちろん、PLANEX CARSの97T/1にも様々な資料がついていたのですが、倉庫の奥深くに仕舞われていて、97T/1が主にTカーやテストカーとして使われた個体であること、実戦ではモナコGPでデ・アンジェリスがドライブし3位に入賞したこと以外、細かな履歴がわからないままでした。
しかし今回その資料を探し出し、97T/1のヒストリーの一端を紐解くことができたのです。
中でも重要なのが、97T/1の全走行を記録した走行リストです。
これによると、97T/1は完成直後の1985年2月1日にイギリス・レスターシャーにあるドニントン・パーク・サーキットに持ち込まれ、シェイクダウンテストが行われています。ドライバーは、この年から加入したセナと、ベテランのデ・アンジェリス。2人で124マイル(約50周)を走ったと記録されています。
次に97T/1が現れるのは、2月8日から14日にブラジル・ジャカレパグア・サーキットで行われたF1のリオ・テスト。この際デ・アンジェリスは1分31秒62で5位、セナは1分33秒34で10位のタイムを記録しながら2人で749マイル(約240周)を走るなど、精力的にテストを重ねます。
そして再び3月7日から10日にかけて行われたリオ・テストで2人は97T/1で438マイルを走行。セナは2位のミケーレ・アルボレートのフェラーリ126C4Bを1秒以上引き離す、1分27秒90を叩き出してトップタイムを記録(一方のデ・アンジェリスは1分31秒62で8位)しています。そのインパクトは大きく、英AUTO SPORT誌は1985年2月14日号で『New Lotus tops in Lio』と題して、セナと97Tの姿を表紙に据えたほどです。
このAUTO SPORTの表紙に、先述の謎を解くヒントが隠されていました。表紙に使われているのは、背景から判断するとリオ・テストではなくシェイクダウンのドニントンでの写真。セナがドライブしているのが97T/1そのものなのですが、ボディをよく見ると、ゼッケンが12ではなく11となっているのです。
当時のテストは今と違い小規模で、1チームにつき1台のマシンで済ませることが多く、セナとデ・アンジェリスは常に97T/1をシャアしながら走っていたのです。ゼッケンは、この時のチームのエースであるデ・アンジェリスの11をつけていました。『ハイネケンF1フェスティバル – セナ・トリビュート2019』で使われていたセナの写真は、おそらく3月のテストの時に撮影された97T/1だったのです。
その後、チーム・ロータスは3月18日から20日にかけて、イタリア・イモラ・サーキットでもテストを実施し、セナとデ・アンジェリスが97T/1で484マイル走行しています。
4月5日から7日にかけてジャカレパグア・サーキットで行われた1985年シーズンの開幕戦、ブラジルGPではデ・アンジェリスが97T/3、セナが97T/2をレースカーとして使用。97T/1はデ・アンジェリスのTカーとして登録され、プラクティスで134マイル走行した記録が残っています。
© Groupe Renault 2020
そしてセナが97T/2でGP初優勝を飾った4月19日〜21日の第2戦ポルトガルGPでもチーム・ロータスの布陣は変わらず、97T/1はデ・アンジェリスのTカーとして登録されていますが、なんらかの理由でプラクティスのみセナが69マイル(約25周)走行しています。
続く第3戦の舞台は、5月3日から5日にかけてイモラ・サーキットで行われたサンマリノGP。ここでは97T/1がデ・アンジェリスのレースカーとして登録され、97T/3がTカー、97T/2がセナのレースカーとなっています。このことから97T/1をデ・アンジェリスがサンマリノGPで優勝した個体だとする資料が散見されるのですが、デ・アンジェリスはプラクティスと予選でのみ使用し、104マイルを消化。土曜の予選で1分27秒852を記録し、セナ、ウィリアムズのケケ・ロズベルグに次ぐ3番グリッドを獲得しています。
しかしながら日曜の決勝では97T/3に乗り換えたため、残念ながら97T/1がウイニングマシンの栄誉を得ることはありませんでした。
(続く)